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2002年12月16日(月) 00時00分

15歳少年 初の逆送 —福島の強盗強姦事件 東京新聞

 今年九月、福島県で起きた強盗強姦事件は発生時、ほとんど報道もされなかった。だが逮捕された十五歳少年の扱いをめぐり歴史的判断が下された。「刑事処分が相当」と検察へ逆送致されたのだ。昨年四月の少年法改正で、刑事罰の対象年齢が十六歳から十四歳に引き下げられ初適用となった。中学生らのホームレス集団暴行致死事件など衝撃的事件が目立つなか、なぜこの事件が「第一号」に−。 (中山洋子)

 この少年は十三日、強盗強姦などの罪で起訴された。今後は公開の法廷で、大人と同様に裁かれることになる。「刑事処分」に値すると判断された“犯罪”はどんなものか。

 事件は今年九月、福島県郡山市で起こった。少年には二人の共犯者がいる。十六歳の少年と、同県いわき市の元新聞拡張員中島順司被告(34)=強盗強姦罪などで起訴済み=だ。少年は中学校を卒業後、新聞拡張員として中島被告らと同じ会社に所属して働いていた。

 起訴状などによると、少年らは九月二日午後六時半ごろ、宅配便業者を装い、女性のアパートに侵入して、粘着テープで目と口をふさぎ、手を後ろで縛り、代わる代わる乱暴した。翌三日午後四時まで監禁し、女性に指示して、母親に現金を振り込むよう電話をさせ、女性から奪ったキャッシュカードで、約十六万円を引き出した。

 また、クレジットカードで新幹線の指定席券、計二十六万六千四百円分を購入し、換金した。

 狙われたのは以前、中島被告が新聞の勧誘に訪れたことがある女性だった。十六歳の少年も勧誘と称して女性宅を訪れている。

 事件前日、金に窮した中島被告が少年らを呼び出し「オートバイを盗もう」と持ちかけた。その席で、十六歳の少年が「(女性が)かわいかった。レイプしたい」と口にした。翌二日、バイク盗をするために郡山市内へ向かう電車内で、中島被告が、予定を変更して女性を襲うことを提案、三人は女性宅に向かった。

 事件後、女性を診断した警察医は「この女性は地獄を見た、と思った。強姦の被害者を多く診たが、ここまでひどい(被害に遭った)人は見たことがない」と証言している。

 少年審判に回った十五、十六歳の二人について福島家裁郡山支部の鈴木桂子裁判官は今月四日、検察庁に逆送する決定を下した。

 決定理由で「少年らは、事前に謀議の上、計画的に本件非行を行っている。執ようで非道きわまりない」と断じた。特に「被害者の受けた心の傷が生涯いやされることのない深刻なものであることは誰の目にも明らかであり、少年に対しては厳しい処分を望んでいる」と、厳しい被害者感情に言及している。

 十五歳少年の関与についても「中核的な役割を果たしているのは成人共犯者であるものの、被害者方に侵入後、被害者に直接犯行を加えたのは、むしろ少年の方であって、少年の行為により被害者が心身ともに大きな傷を負うに至っていることを考えれば、責任は重大」とした。

 確かに強姦罪を犯すような少年を「子ども」扱いするのは理不尽だ。だが、そもそも福島地検は「刑事処分相当」の意見を付けないで二少年を家裁に送っている。少年審判でも検察官は立ち会っていない。性犯罪事件でもあり、地元紙なども被害者に配慮してベタ記事で小さく扱った。

 この事件が、十六歳未満の少年の初の「逆送」になるとは、検察もほとんど想定していなかったようだ。少年が戻されて、検察側からは驚きとともに「及び腰だった」という自戒の念も聞かれたほどだ。

 これと対照的なのが、今年一月に東京都東村山市でホームレスに集団暴行を加えて死なせた中学生らや、十月に愛知県春日井市の児童自立支援施設「愛知学園」の職員を殺害した中学生らの事件だ。両事件には発生当初から、十六歳未満で初の逆送になるのではないかと、家裁の判断に注目が集まっていた。検察側も「刑事処分が相当」の意見を付した。だが、いずれも保護処分にとどまっている。

■「法改正後でもちゅうちょか」

 ちなみに、ホームレス暴行致死事件を担当したのも女性裁判官で、保護処分の決定理由で「刑事罰を科す必要性も検討されるべき事案だが、(少年の)社会性の発達が遅れていることなどから、保護処分で責任の重大さを自覚させるのが妥当」とした。

 この事件で、中学生の一人を担当した弁護士は「テレビゲームを楽しむ感覚で人を死なせるのは幼さの表れ」と強調した上で「中学生を法廷に立たせるなんていかにも痛々しい。改正少年法で刑罰も『あり』とされたにしても、運用面でこうしたちゅうちょがあるのではないか」と話す。

■「結果の重さと処分は別問題」

 少年法に詳しい広島大学法学部の吉中信人助教授は「司法実務はずっと続いているもので、法改正で十四歳以上も刑事罰が適用されるとなっても、現場はそう急に変わることはありえない」と説明する。

 「少年法の研究者の間では、初の逆送事例は、殺人など死刑に相当するような重い事案ではなく、道路交通法違反のような、予想以上に軽い事案だろう、という予測があった。強姦事件が軽いというわけではないが、結果の重さと保護が必要かどうかは別の問題だからだ」と補足する。

 「例えば、神戸の連続児童殺傷事件のような特殊な事件が、改正少年法のもとで起きたとしても、直ちに『刑事処分相当』となるとは限らない。むしろ、根深い少年の問題として、過失について気づかせる教育の方が重要という判断になるかもしれない」

 その上で、逆送の理由について吉中助教授は「裁判官が保護が適当ではないとみるむごい事案であったことや、成人の共犯者がおり、三人に対して不釣り合いのない処分を出すことも考えたのでは」と推測する。

 家裁判事の経験もある東京経済大学の守屋克彦教授も「郡山の事件では、十六歳の少年がいる。こちらが刑事処分相当と判断した場合、一年も離れていないのに処分が分かれるのは不公平だという判断があったのかもしれない」とみる。

 「少年犯罪は大人の事件と違って手口や結果などでひとくくりにできない。どの事件も、個別の要素がある」と説明する。

 それでも、この「前例」は次の「厳罰」の突破口になりうるとみる。守屋教授は「裁判官は今後、被害者から『逆送した例もあるのに』と厳罰を求められたとき、どう説明するかを考えざるをえない。今後、少しずつだが裁判所の措置は変わってくることになるだろう」と話した。

■改正少年法

 昨年4月施行。神戸連続児童殺傷事件など「14歳」の重大事件が相次いだことから、刑事罰の適用年齢が16歳から14歳に引き下げられ、14、15歳の検察への逆送致が可能となった。また、生死にかかわる事件の場合、16歳以上は逆送が原則で厳罰化が進んだ。

<デスクメモ>
 さだまさしの「償い」という歌がある。ある少年の傷害致死事件判決で裁判長が引用した。歌の主は交通事故で死なせた遺族に仕送りを続ける。七年後、「ありがとう」の一言に「償いきれるはずもないあの人から返事が…」。償いとは、償いきれない罪の自覚から始まる。刑罰を下すだけでなく少年にそれを教えたかったようだ。 (熊)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20021216/mng_____tokuho__000.shtml

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