2002年06月03日(月) 00時00分
検証市外局番の怪 局番“合併”で使用料アップ (東京新聞)
来年四月の合併が事実上決まった静岡、清水両市で、電話の市外局番統一問題が浮上している。一つの街になるのだから、局番も一つにしたいところだが、統一されると、各家庭が払う回線使用料が値上がりする事態を招くのだ。東京・多摩地区には、一つの行政区に四つの局番が存在する自治体もあって、東京都も頭を悩ませている。市外局番の“怪”を検証する。 (鈴木穣) ■「市内通話」で安くなるが…
「清水と静岡の経済界は一体で、街も実質一つだ。両市間の通話も多く、市外局番が統一されれば、利便性も上がるし、安い市内通話料金にもなり、メリットは大きい。ぜひ実現させたい」 清水商工会議所の山本勉事務局長はこう期待する。市外局番は現在、静岡市が「054」、清水市が「0543」だ。隣接した両市は同じ商圏にあることからも、十五年も前からNTTに要望を繰り返してきた。 だが、「ネックがある」と山本事務局長はいう。 「現在、両市の回線使用料(住宅用)は一回線あたり月額千六百円ですが、局番を統一すると、百五十円値上がりするというんです」 電話サービスは、基本的に市外局番ごとにメッセージエリア(MA)と呼ばれる区分で分けられている。そのMAは受け持つ回線数に応じて、一級局から三級局まで分かれており、それぞれ回線使用料が違うのだ。一級局と三級局とでは月額三百円の差が出る。 静岡、清水両市のそれぞれのMAは現在二級局。これを一緒にすると、四十万回線以上の三級局に“昇格”するため、百五十円分、回線使用料もアップしてしまうのだ。 これまで市外通話料金だった静岡−清水間通話が、合併で安い市内通話になる半面、回線使用料は値上がりすることになる。局番統一を望まない市民も出てきそうだ。 「それに隣接する島田市や焼津市など、複数の自治体も静岡と同じMAです。これらの市民は合併と関係ないのに、回線使用料だけ上がる。理解は得にくい」と山本事務局長は頭を抱える。 静岡市の合併担当である古屋光晴・広域行政課長も「利用者の料金負担問題があるので、こちらから積極的に(統一を)働きかけにくい」とこぼす。 NTT西日本静岡支店は「局番変更は地域の要望があったら検討に入るが、まだ合併も正式に決まっていない現在、何もいえない」と様子見の構えだ。 ■地方のコスト都市部で負担
それにしても、回線数が多くなれば、かえって設備投資などの費用対効果が上がり、料金も安くなりそうなものだが、なぜ逆に値上がりするのか。 「確かにその方がコストは安くできる」と、NTT東日本の担当者も認める。 「でも、地方では山間に電話線を引くには時間もかかり、回線数が少ないことで市内通話の相手も限られていた。そのため政策的配慮から、回線数が多く市内通話利用も多い地区より、回線数の少ない地区を安く設定してきた」 MAの整備は一九六二年からスタートしたが、いわば設備投資にカネのかかる地方のコストを、都市部の回線使用料を高くすることでまかなってきたというわけだ。 ■多摩地区は複雑“でこぼこ”地帯
東京・多摩地区では、同じ行政区に複数の市外局番が存在し、問題になっている。例えば、調布市の場合は、市内に四つもの市外局番が混在している。 同市内の大部分は「0424」なのだが、「0422」や「042」、「03」の地区もある。隣接する狛江市では、「03」と「0424」の二種類。昨年、保谷市と田無市が合併して誕生した西東京市でも「0424」と「0422」の局番が残ったままだ。 なぜこんなことになっているのか。 「インフラ整備は、基本的には行政区に合わせて進めてきた。しかし、同じ行政区内でもコストを考えて、より近い別のMAから線を引いた地区があって、多少でこぼこになってしまった」(NTT東日本) この問題の解決に向けて、東京都も動きだしている。昨年十一月からは、都が音頭を取って、NTT東日本と自治体担当者を加えた検討会を設置した。 検討会でNTT側が示した改善策は二つある。まず、一つの行政区に複数存在するMAをどちらかに一本化して、局番を統一してしまう方法だ。 「ただし、その地域の契約者全員の合意が条件だ。回線使用料の値上げなど、デメリットになるお客さまも出ることになり、全員合意といわざるを得ない」(NTT東日本) もう一つが、今春に提示された案で、一つのMA内に複数の市外局番が存在する場合に限り、局番を統一する方法だ。例えば「武蔵野三鷹MA」は、「0422」と「0424」があるが、これを「042」に統一するやり方だ。 第一案には「全員の合意なんて物理的に無理」などの声があり、第二案では同じ行政区に複数のMAが存在する調布市などで、問題が残ったままになる。 では、いっそMAの統一を進め、多摩地区も区部と同じ「03」にしたら−。 「しかし、これはNTTの“ドル箱”である通話料金の高い市外通話を手放すことになる」と関係者は指摘する。 NTT東日本では、市内通話料金は三分八・五円。これに対し、市外通話料金は三分二十円−四十円と高く設定されている。同社の二〇〇〇年度の営業収益は、市内通話が百億円の赤字に対し、市外通話は一億円の黒字だった。 「昨年度の全体の経常利益は七十五億円。経営は厳しい」(NTT東日本)という状況では、都内全域が市内通話となる多摩地区の「03化」などは是が非でも阻止したいのが本音だ。 一級局から三級局の回線使用料の格差をなくす方法も考えられるが、いずれも難しいようだ。 ■平成の大合併で全国に波及?
平成の大合併と呼ばれる、市町村合併が全国で進んでいる。市外局番問題は今後、各地でも予想されるが、電話番号を管理する総務省の腰は重い。 「一ついじれば全国的に対応せざるを得なくなり、収拾がつかなくなる。民間企業のNTTの経営を圧迫するようなことはしにくい」(同省番号企画室) 通信分野に詳しいハイホー・マーケティングサービスの平塚友康取締役は「米国では通信の平等性から市内通話は無料だ。生活保護世帯も水道や電気と同様に、通信を利用できる権利を認めているからで、政策的にはそういった発想は求められる」と指摘する。
「最近ではインターネットの普及で全国一律料金のIP電話や、CATV利用の電話も出てきた。距離による料金設定は無意味になりつつあるし、そもそも固定電話の存在意義も問われだした。NTTにも早晩、大きな発想の転換が求められるだろう」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20020603/mng_____tokuho__000.shtml
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