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2001年12月03日(月) 00時00分

一人歩きした怪情報検証「ワンギリ商法」騒動毎日新聞

あなたの携帯にも
ワンギリ電話が…

 携帯電話の呼び出し音が1回だけで切れ、着信履歴に残った見知らぬ電話番号をコールするとアダルト系業者などに掛かる「ワンギリ商法」が先月末、ネット上で大きな話題になった。実際の被害が少ないにもかかわらず、風評だけがまたたく間に広がった。経済産業省などによると、ようやく相談も一段落したようだが、あらためて今回の騒動を検証してみた。(柴沼 均)

■迷惑メール対策逃れの新商法

 国民生活センターなどの消費者生活相談機関によると、ワンギリ商法に関する相談は今春ぐらいからポツポツあったが、急増したのは11月20日過ぎから。その大部分が「ワンギリで掛け直すと10万円の請求が来ると聞いた。大丈夫か」というもの。実際に請求が来た例はほとんどなかった。

 電話を利用した商法に詳しいムック「電話マニア」編集部の村中宣彦さんは「ワンギリ自体は無作為に電話番号をかけるソフトを使えば、簡単にできる。1回で切るため、業者側は電話料金もいらない。NTTドコモや行政が迷惑メールの対策を進めたため、新しい商法が生み出されたと考えられる。このような商法は新鮮さがミソ」と解説する。

■風評が短期間に先行、真偽不明情報が一人歩き

 今回の騒動の特徴は、短期間に風評が先行したことだ。経済産業省の押田努消費経済政策課長は「これだけ短期間で広まった例はこれまでにない」と話す。その原因はネット上で「10万円程度の請求がくる。取り立ては厳しいらしい」と、ワンギリをかけてくる電話番号を20件近く並べた「業者リスト」情報が飛び交ったことだ。

 いかにも根拠がありそうな、もっともらしい情報だ。その内容を鵜呑みにした人は多かった。だが「電話番号の中には、古手で不当な請求を行うとは考えにくい業者の番号もある。そもそも、業者の番号をこれだけしっているのは不思議。このメールの中身自体が怪情報です」と村中さんは指摘する。

 「知人にも教えてあげて」というコメントが付いたこともあって、業者リスト付きメールはむやみに増殖するチェーンメールと化した。情報が流布する過程で「業者リスト」の番号が書き換えられた例も発見された。

 「今回の場合、実際の被害が出たという情報がほとんどないのに、メールや掲示板などで、尾ひれがついて流れた。それを学校や企業などが注意を呼びかけるために生徒や社員などに伝え、信頼性がついてしまった」と、村中さんは分析する。

 こうした情報の一人歩きに対して、行政やメディアの対応もすばやかった。経済産業省、総務省、国民生活センター、警視庁といった関係機関が11月下旬に、ワンギリ対策の情報をホームページに掲載し、不当な請求があった場合の相談の呼びかけや、メールなどで不確かな情報を流すことを止めるよう求めた。メディアも当初はワンギリ商法を紹介する報道をしていたが、自制を求める報道に変わっていった。

■不当請求は怖くない

 念のため、このような電話が実際にかかってきた場合にどうすればよいのか、確認しておこう。

 総務省によると、携帯電話からダイヤルQ2に直接つながることはなく、コールバックだけでは支払い義務は発生しない。また、経済産業省によると、ワンギリ電話で掛け直した相手先が音声ガイドにつながり、ガイドに従って登録するなどして申込み、有料サービスに入った場合、「特定商取引に関する法律」の規制対象となるという。

 同法で定める「通信販売」の広告にあたるため、音声ガイドに従って登録した場合も、利用料の情報を伝えなかったり、利用料は伝えても、入会金などその他の負担が必要なのに隠していた場合は同法に抵触する。このような場合は、被害者が同省の消費者相談室などに相談すれば、同省は業者に改善を指示し、従わなければ業務停止命令を出せる。また、取り立てに際して脅迫的な行為があれば、警察とも連携しながら対応をとるという。

 ただし、業者側がサービスに関する正しい情報を表示していると、ユーザー登録した場合は契約が成立する。通信販売のため、クーリングオフもできない。書面での契約や条件提示が不必要なため、好奇心で電話をかけると、よく理解していないうちに登録してしまう恐れもある。

 同省は「駄目モトで請求書を出す業者がいる可能性もあるので、身に覚えのない請求が来た場合は相談してほしい。とにかく、着信履歴に残された知らない電話番号に不用意に電話を掛け直すのは避けた方が安全」としている。

■基本は自己防衛、怪情報を鵜呑みにするな

 現行法ではワンギリ電話自体を防ぐことはできない。総務省の「迷惑メールへの対応の在り方に関する研究会」委員である岡村久道弁護士は「わずらわしい、迷惑メールの変形。技術の発展で個人でも情報発信ができるようになると、悪用する人が出てきて、情報の受容を強制させられるようになった。全体的な枠組みの中で対応し、法改正をしないと根本的な問題解決はならない」と話す。

 一方、ネット犯罪に詳しい園田寿・関西大学法学部教授(刑法)は「基本は自己防衛。技術の進歩は早く法的規制は追いつかない。また、下手に規制すると良いものを摘み取る可能性がある。利用者自身が情報の真偽を確かめる知識を元、不必要に不安を煽られないようするべきだ」という。

 今回の騒動は、すばやく鎮静化したためそれほど問題化しなかったが、怪情報に対する反省や対応策がネット社会の常識にならないかぎり、同じような騒動は何回も起きるのではなかろうか。

【関連サイト】

[経済産業省の注意呼びかけページ]

http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0002120/

[総務省の注意呼びかけページ]
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/keitai.html

[国民生活センター]
http://www.kokusen.go.jp/

[警視庁]
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/

[三才ブックス](電話マニア発行元)
http://www.sansaibooks.co.jp/

http://www.mainichi.co.jp/digital/netfile/archive/200112/03-1.html

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