「離婚前の1年間、夫から毎晩毎晩執ようにセックスを求められ、とてもつらかった」。東京都内の飲食店で会った響子さん(31)(仮名)は伏し目がちに苦痛の日々を語り始めた。
営業職として働く彼女が「明日は出張で朝早いから」と断った時、みるみる不機嫌になった夫が冷たく言い放った一言が今も忘れられない。「妻なんだから、セックスして当然だろ。なんでもいいから早く落ち着かせてくれよ」
「彼の欲望処理係のように扱われ、自分を汚らしいと思いました」と話す響子さんの目元がかすかに赤かった。
95年に結婚するまでの3年間の交際中、夫をやさしい人と感じていた。車から降りる時、回りこんでドアを開けてくれたり、重いものを持ってくれたり。スポーツマンで、体格もいい彼のたくましさも好きだった。
しかし、一緒に住み始めると、すぐすれ違いが起きた。仕事を続けていた響子さんの帰宅が遅いと、「結婚してるんだから、早く帰れよ」と文句を言われ、間もなく門限まで決められた。
女はかくあるべき、という思い込みが強かった。自分の思い通りにいかないと、結婚後、少し体重が増えた彼女を「このデブ」「トドみたいだ」と、ひどい言葉でいじめるようになった。そして、2人の関係がうまくいかなくなるほど、強引なセックスを求めてきた。「征服欲だけを満たしていると感じました」。我慢できず、2年で離婚した。
東京都が昨年5月に発表した「女性に対する暴力」調査によると、夫や恋人などから「おどしや暴力で、意に反して性的な行為を強要された」女性は、対象となった1183人のうちの5%に上り、9%の女性が「見たくないポルノビデオなどを見せられる」と答えている。
これまで、日本では「夫が妻に性交渉を求めるのは当たり前」と考えられてきたため、夫婦や恋人間の性的暴力はほとんど問題にならなかった。しかし、最近は身体的にまた言葉で女性に暴力を振るうドメスティック・バイオレンス(DV)の一つととらえられ、特に望まない性行為を強要する場合は「ドメスティック・レイプ」と呼ばれる。
妻や恋人などに暴力を振るう男性にカウンセリングを行っている桐朋大講師の草柳和之さんは「古典的な男らしさの観念にとらわれている男性ほど、強さを見せるために暴力の矛先を妻に向ける傾向がある。暴力を振るうことで失われた男性性を回復しようとしている」と話す。
離婚情報季刊誌「LIZ(リズ)」で結婚・離婚相談を手がけるセラピストの木村由美子さんは、「暴力をふるう夫を見ると、妻に精神的に甘えている。それが甘えられなくなったり妻に反撃されると、爆発する」と指摘する。
男性の側は一方的に抱いている「男らしさ」の観念から脱却し、自立した個人同士による対等な夫婦関係を築くことが求められている。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/sfuukei/fe_sf_19991103_01.htm