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1996年12月12日(木) 00時00分

(2)女性からも「セックス」読売新聞

◆タブー薄れ、抑えていた欲求表に

 その気がある時は、自分から「セックスしようよ」と、はっきり口に出す。相手が気乗り薄だと、彼の体にふれるなど積極的な行動に出ることもある。トータルすると、彼女から求める回数の方が多いという。

 東京の営業ウーマン(29)。4歳年上の会社員と同居して4年になる。以前は、セックスだけを目的に別の男性を自分からホテルに誘ったこともある。

 「女性にも性欲はあるし、女性が受け身だと思われていること自体が嫌」と、強い口調で言った。

 何かにつけ「だれに食わせてもらっているんだ」と威張り散らす父親と、言い返せない母を見て育った。その原体験が、「男だから」「女だから」という差別への反発を生んだ。結婚しないのも、そのためだという。

 しかし、こうした理由がなくとも、性について自分がどう思っているのか、どうしたいのかを優先させる女性が確実に増えている。

 「だってはっきり言わないと相手に伝わらないから。別に恥ずかしいことでも何でもない」と、同じ東京のOL(26)は言う。3歳年上の彼とのセックスの後で満足できないと、「私は楽しめなかった」と“文句”をつける。

 2人でアダルトビデオを見ようと提案したり、冗談めかして「強精剤を試してみたら」と、からかったりすることもある。最近、自分でも不満を言うことが多くなったと反省しながらも、「疲れた」と言うばかりで少しも努力してくれない彼にいらだつことがあるそうだ。

 「男性だけが満足し、女性が与えられるだけというのは不公平」と、一見おとなしそうな彼女が当然のことのようにつけ加えた。

 若い女性が対象の雑誌「アンアン」がセックス特集を組んで話題になったのが1992年。女性向けにセックスを楽しむための方法を解説、30万部を売り上げた「ジョアンナの愛し方」(飛鳥新社)が出版されたのも同じ年。若い女性の間でセックスを楽しむことや、それを公言することをタブー視する人が減ったのはこのころからだろう。

 93年には女性専用のアダルトグッズの店「キュリウス」が東京・渋谷にオープンした。来店した女性客は10万人を超えるという。

 今秋、女性向けに3冊目のセックス教本「ビッグO(オー)」を出版した飛鳥新社の編集部には「勉強になった」「自分でも試してみた」という反響が2、30代の女性を中心に寄せられている。

 「女性の考え方が変わったというより、セックスについて発言しても許される時代が来たと肌で感じた女性たちが今まで抑えていた欲求を素直に表に出すようになった」と担当の島口典子さん。

 結婚にあたっても、若い女性たちは性を重視する。

 「お見合いの時、まず第一印象でこの人とエッチできるかなって考える」。埼玉県のOL(22)が、あっけらかんと言った。相手に性的魅力があるかどうか、冷静に品定めしているのだ。

 「セックスの相性は結婚の大切な条件。若い女性には常識よ」と言った別のOLもいた。考え方や趣味などと同じように、長い結婚生活を送るには性の一致も欠かせないと彼女たちは考えている。

 こんな傾向を見て、30代後半の主婦がこう感想をもらした。「はっきりモノが言えてうらやましい。あと10年遅く生まれたかった」

 ひところ、「おやじギャル」という言葉がはやったことがある。酒やたばこは無論、競馬を始めギャンブルに興じ、スポーツ新聞を読み、健康ドリンクを飲む——。典型的な中年男性と同じようなことをする若い女性たちを揶揄(やゆ)したこの表現は、女だから、男だからという垣根を破った「男女のボーダーレス」を象徴する言葉でもあった。

 若い女性たちの話を聞いていると、ボーダーレス化が着実に進んでいることを実感させられる。もちろん、性に積極的な人もいれば、消極的な人や罪悪感を持つ人もいる。しかし、それは男、女という性差によるものではなく、あくまで個人差の問題だ。

 彼女たちは、すでに性のボーダーレス社会を生き始めているのかもしれない。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/sfuukei/fe_sf_19961212_01.htm