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1996年09月12日(木) 00時00分

(7)愛する人とが1番 描写「きれいでハッピー」なら読売新聞

 ブロンドの髪をかき上げる男性、その厚い胸板にうっとりとよりかかる女性。かなりセクシーな場面だが、絵のせいか生々しくはない。

 「この表紙がいいんですよ。イメージをかき立てられますから」

 京都市の主婦山川栄子さん(29)は十数年来のロマンス小説ファン。看護婦の仕事をやめて育児に追われる今も、月に20冊は読む。新婚旅行にも10冊ほど持って行った。

 「どれも同じようなものだと悪口を言う人がいますが、主人公の職業も個性も、出会いや設定も全部違う。その違いを楽しむんです。ああ、自分がこうだったらいいなと夢に浸っている時が最高」

 男女が恋に陥り、必ずハッピーエンドで終わる欧米発のロマンス小説。カナダに本社があるハーレクイン社のシリーズがこの種の小説のいわば代名詞となっているが、ミステリーや歴史大河小説などの分野でもロマンス的作風の女性作家が活躍している。

 実は、ロマンス小説にはけっこう濃厚なセックス描写が多い。「シリーズや作家によってはかなりセクシーなものもあります。夢物語より女性たちの現実の生活を反映した作品が増えてきていることも背景にあります」とハーレクイン・マーケティング部。

 大のファンの山川さんも、「ハードな描写が多くなったなあ」と実感している。しかし、男性向けの娯楽小説と決定的に違うのは、ロマンス小説のセックスは必ず「愛」に裏付けられており、暴力はもちろん、無理強いのセックスも登場しないことだ。

 「私が気に入っているのはきれいでハッピーなセックスが描かれているから。愛する人とが1番なんだなあと実感できる。私が教師なら、若い人の性教育に使いたいくらい」と山川さんは言う。

 日本でも小説と映画が相次いで大ヒットした「マディソン郡の橋」。「中年の純愛」を描いているとされるが、決して「手も握らない」純愛ではなくセックスの場面も出てくる。女性は夫持ちだから、いわゆる不倫なのだが、お互いの恋愛感情に裏付けられたセックスは指弾されず、「純愛」と表現された。

 「肉体関係を持つことが本当に簡単な世の中になった。だからかえって、女性がセックスに愛とか心とかを強く求めるようになったのかもしれませんね」とフリージャーナリストの中井清美さん(35)は分析する。

 中井さんがロマンスと並んで注目するのが、男性間の同性愛を扱った女性読者向けの小説。少女漫画から発した「少年愛青春小説」の人気はこの10年余りで広がり、複数の小説誌が競合、角川書店では「角川ルビー文庫」としてシリーズ化されるほど。栗本薫さんの「終わりのないラブソング」は8巻続く。男性同士の肉体関係に翻弄(ほんろう)されてきた主人公が、たった1人との精神的なきずなに救いを求めていく物語だ。

 「魂の救済、愛による成長物語というのが、この分野の基本テーマ。私は“変形ハーレクイン”と呼んでいますが、1人が1人を守り抜く、肉体の上ではどんな性体験を経てきたとしても、一種の処女性、純粋さを再生したいという思いは共通するのでは」

 中井さんは、2年前、男性向けポルノ小説を150冊読破して分析、その結果を「わたしのエロ本考察 寂しい男と悲しい女」という本にまとめたことがある。

 「ポルノはすべて性の商品化」と決め付けるつもりはなかったし、女性にとって面白い作品もあるのではと読み始めた。しかし、一般の書店で手軽に買える本ですら、あまりに暴力的な内容であることに驚いた。言葉と行為で女性に対する憎悪を表現し、人種や職業の差別がからんだものも多かった。

 もちろん、すべての男性がレイプやSMを好むわけではない。しかし、女性の性的幻想が恋愛や、時には結婚と分かちがたく結びついているように、暴力や憎悪が男性の性的幻想の底に沈んでいるように見える。「男性のストレスはそれだけきついのかなあ。みんな疲れてますもんね」と中井さんはつぶやく。

 現実の性生活だけでなく、つかの間の性的幻想についても、男女のすれ違いは大きくなっているようだ。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/sfuukei/fe_sf_19960912_01.htm