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1996年09月06日(金) 00時00分

(4)タブーを逆手「下ネタ」コント読売新聞

◆気軽に語る文化 まだまだ未熟

 東京・銀座にある吉本興業の銀座7丁目劇場。1日に数組の若手漫才やコントが出演する。客席も、ほとんどが10代の女性やカップル。あすのダウンタウンを探そうと声援を送る。

 ここで最近、「モリマン」という女性2人組のコントが話題になっている。ホルスタイン・モリ夫(23)、種馬マン(26)という芸名から想像がつく通り下ネタつまり下半身の話で笑わせる。といっても色気とは無縁、いわば男子中学生の放課後の悪ふざけだ。

 茶髪で化粧っ気はないボーイッシュな2人。「ウンコ」「チンチン」「ケツ」などという言葉がポンポン飛び出す。「マッチ売りの少女」に扮(ふん)したコントの中で突然モリ夫がつぶやく。「ああー、セックスしてえな」。乗り過ぎてパンツを下ろした時は、さすがに周囲に怒られた。

 男性から「女なのにあそこまでやるか」と非難されることも少なくない。「でも、そう言われるとかえってうれしい。女の子っぽい笑いは好きじゃない。中性的な所を出すのがねらい」

 学生からフリーアルバイターを経てこの道に。1年ほど前、コントの材料に困ってつい下ネタを叫んだら、思いのほか受けた。高校生のファンは「普通の人ができないことをし、言えないことを言う。それが爽快(そうかい)」。

 モリマンは、性のタブー感を逆手に取って笑わせる。

 「保健の教科書に出てくる言葉や表現の方がよっぽどいやらしく感じる時がある。といって普通の女の子がセックスの体験とかをあけすけに話しているのを聞くと、私ら、あそこまで下品じゃないなあと思う。もっと明るく楽しく話せればいいのに」

 性に関する情報はあふれていながら、日常、性を気軽に語る文化は育っていない。特に女性は「女の子なのに」とブレーキをかけられる。そして「いい年をして」という言葉は、中高年に向けられる。

 その中高年の男性の間で最近、性体験投稿誌がひそかなブームになっている。創刊15年、3万部ほどの発行部数を持つ古参誌に対し、競合誌が数種類登場してきた。いずれも300ページほどで活字がぎっしり詰まっている。投稿は匿名や仮名だが、年齢を見るとほとんど50代以上。中には80代も見受けられる。

 「性欲も興味もあるのだが、妻には拒否される。性に関してオープンに口に出せない世代。だから、他の人がどんな性生活や体験をしているのか興味がある。投稿は一種のストレス解消」とベテラン編集者が説明する。

 「老妻をなだめ、好評のラブホテルに強引に車を乗り入れた時のこと」(73歳)、「美しい熟女を見れば、肌に触れ、キスし、セックスしたい。聖人君子の心は現世から遠ざかる」(64歳)

 文章も用語もやや古めかしいが、しっかりとしている。

 東京都渋谷区の筆名・大竹亘人(あきと)さん(63)は、投稿仲間で作る誌友会と、別の雑誌から広がった「性を楽しく語る会」の2つのグループを主宰する。どちらの会合でも「初めての体験」などのテーマを決め、出席者に話してもらう機会を設けている。最初は皆とまどう。大竹さんらが話を引き出すように質問を投げかけると、少しずつ気持ちがほぐれて話し出す。

 「入会してくるのは公務員、教員、警官など現役のころは堅い職業だった人が多い。ストレスのかたまりなんでしょうね」

 家族には秘密にしている人の方が多い。まだまだ性に関心を持つこと自体、「年がいもなく」と言われがち。連絡をとる際も、当たり障りのない団体名を名乗る。

 「書きたい、語りたいという人が多いのは、どれだけ語れないかの裏返し。上司とか同僚とかの間でも、もっと性をフランクに話せれば、こんな会はいらないんですよ」と大竹さん。

 確かに性は秘められたものだ。タブーがあるからこそ魅力的だという人も多いだろう。しかし、雑誌などにヘアヌードがはんらんするなど商業的な性表現が進む一方で、日常的に性を語る文化は育っていない。下ネタコントへの笑い、性体験投稿の流行は「性の解放」がまだアンバランスであることを教えている。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/sfuukei/fe_sf_19960906_01.htm