[an error occurred while processing this directive]
1996年04月24日(水) 00時00分

麻原彰晃被告の初公判始まる 地下鉄サリンなど3事件読売新聞

◆「職業はオウム主宰者」「松本の名前は捨てた」 人定質問で陳述

 オウム真理教の元代表・麻原彰晃(本名・松本智津夫)被告(41)の初公判が24日午前10時から、東京地裁刑事7部(阿部文洋裁判長)で開かれ、17の事件で起訴された麻原被告の裁判が逮捕から11か月ぶりに始まった。この日は地下鉄サリン、元信者の落田耕太郎さんリンチ殺人、麻酔剤密造の3事件の審理が行われた。麻原被告は人定質問で「麻原彰晃」と名乗り、松本智津夫という本名については「その名前は捨てました」と述べた。この後、検察側が起訴状朗読に入り、地下鉄サリン事件では3807人の死傷者全員の名前を読み上げていった。麻原被告の罪状認否は午後に、検察側冒頭陳述は25日に行われる。

 〈起訴事実の骨子〉

【地下鉄サリン事件】 95年3月20日午前8時ごろ、東京・霞が関を通る営団地下鉄3路線の計5本の電車内でサリンを発散させ、乗客ら11人を殺害、3796人にサリン中毒症を負わせた。

【落田耕太郎さんリンチ殺人事件】 94年1月30日、教団施設で元信者らに命じて落田さんを絞殺、遺体を焼却した。

【麻酔剤密造事件】 94年11月から95年2月まで教団施設で麻酔剤のチオペンタール約1700グラムを無許可製造した。

 ◆起訴状朗読続く 罪状認否、午後に

 麻原被告は昨年5月16日、地下鉄サリン事件の殺人容疑で逮捕されて以来、松本サリン、坂本堤弁護士一家殺害など17の事件で起訴された。一連の事件の死者は26人を数え、わが国犯罪史上で最悪の事件となった。

 この日、東京地裁一〇四号法廷の裁判官席には、阿部裁判長以下3人の裁判官に補充裁判官を加えた4人の裁判官が並んだ。検察側は、東京地検の川野武昭・公判部副部長ら8人の検事が立ち会い、弁護側は渡辺脩団長ら12人の国選弁護団が出席した。1人の被告に12人の国選弁護人が選任された例は過去にない。

 冒頭の人定質問で、麻原被告は自らの名前を「麻原彰晃です」と述べ、阿部裁判長から「松本智津夫では」と問い直されると、「その名前は捨てました」と、本名を名乗ることをあくまで拒んだ。さらに、本籍、住所はいずれも「覚えておりません」としたが、職業については「オウム真理教の主宰者です」と答えた。

 この後、検察側は、落田さんリンチ殺人、麻酔剤密造、地下鉄サリン事件の順に起訴状の朗読に入った。地下鉄事件では、弁護側が「目の見えない麻原被告に全文を読み聞かせるべきだ」と求めていたことから、検察側は11人の死者と3796人の負傷者全員の名前、治療期間などが記載された起訴状別表を朗読することにし、検事が交代しながら被害者の名前を読み上げていった。

 起訴状朗読は、昼休みをはさんで午後1時14分から再開された。この後、弁護側が起訴状の疑問点をただす求釈明、これに検察側が答える釈明が行われ、罪状認否に移る。

 麻原被告は、明確な認否をせず、手短に意見陳述のみを行う見通し。最後に弁護団が意見を述べ、初日は閉廷する。検察側冒頭陳述は25日の第二回公判で朗読される。

 麻原被告の公判は、5月から7月まで毎月2回ずつ行われることが決まっており、順調に進めば、7月までに17事件すべての罪状認否と検察側の冒頭陳述など冒頭手続きを行う。証人尋問など実質的な審理は秋以降となる。

 ◆紅潮し早口に 陳述台の麻原被告

 麻原被告は、両手錠のまま、数人の刑務官に付き添われて法廷に入って来た。逮捕から344日ぶり。足を引きずるように、ゆっくりと進み、手錠をはずしてもらって被告人席に座った。目をつぶり、うつむき加減で両手を前に組む。

 襟のない紺色の上着に、色落ちしたブルーのトレーニングズボンをはいている。初公判前には紫色の、そして、この日の法廷では弁護人が白の「クルタ」の着用許可を求めたが、認められなかった。履物は、茶色のサンダルに白の靴下。

 背中まで伸びた長い髪を、後ろでひとつにまとめている。口元からあご、ほおを覆うひげには、白いものが交じる。

 1日おきの断食のせいで、逮捕直後に91キロあったという体重は、約20キロも減った。だが、そのわりに顔色は良く、ほおは紅潮しているように見える。

 午前10時15分。裁判長の呼び掛けで、被告人席からむっくりと立ち上がり、陳述台へ。

 誘導しようとする刑務官の手を一瞬、振り払うしぐさも見せた。直立不動のまま、人定質問に答える声は低く、太く、早口だった。

 起訴状朗読開始。地下鉄サリン事件の被害者全員の氏名が読み上げられた。麻原被告は、不機嫌そうな顔つきで聴き入り、時折顔に手をやったり、上を向いたり、唇を動かしたり、終始落ち着かない様子だった。

http://www.yomiuri.co.jp/features/kyouso/past/ky19960424_01.htm